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12月になり、寒さが厳しくなってきた。この時期は、血管が収縮し、血圧が上がりやすくなるので、血圧の高い人は注意が必要だ。高血圧の人の多くは、減塩を求められるが、そうでなくても食事中の塩分に気づかう人は増えている。厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」では、2020年の改訂で1日あたりの塩分摂取目標量が引き下げられる。さらに減塩への流れが加速しそうだ。
■ より厳しくなるも、まだ遠い目標達成
いまや「塩分の摂り過ぎは高血圧の要因となる」というイメージが定着し、多くの減塩食品が市販されている。塩分の摂り過ぎは、高血圧を招き、心臓病や脳卒中、腎臓病の原因になるといわれる。
1979年に厚生省(いまの厚生労働省)が食塩摂取目標量を「成人1日あたり10g以下」と定めたが、その後も何度か見直されている。2015年に改訂されたときは「男性8g未満、女性は7g未満」に低減された。そして、2020年には、「男性7.5g未満、女性6.5g未満」と0.5gも引き下げられる。
一方、世界保健機構関(WHO)はさらに低い「1日5g未満」を推奨する。日本高血圧学会は「減塩推進東京宣言」を10月に発表し、「1日6.0g未満」を目指すという。
厚労省の2017年度「国民健康・栄養調査」によれば、日本人の1日あたりの食塩摂取量は平均9.9gで、男女別にみると男性は10.8g、女性は9.1gである。男性のほうが多いのは、食事量が女性より多い傾向があり、その分、塩分摂取量も多くなるためである。日本人の塩分摂取量は徐々に減っているものの、目標値にはまだ遠い。
■ 減塩にはテクニックが必要
塩分を減らすには、「麺類の汁は残す」「漬物や干物を食べ過ぎない」などの食生活を送る必要がある。また、減塩食品を使うなどして料理の味付けを工夫することも大切となる。
ただ、すでに塩分に気づかった食事をしている人は、「これ以上どうやって塩分を減らせばいいのだろうか」と途方に暮れるかもしれない。また、減塩を心がけたものの続けることができないという人は多い。その理由の第一は「おいしくないから」だといわれる。
食塩は、単に調味のためだけでなく、うま味を引き立てたり、風味をよくしたりと重要な役割を果たしている。何よりも塩気があればご飯が進む。塩の成分であるナトリウムは生体に必須であるが、米や野菜ばかりを食べているとナトリウムは不足する。そこでご飯に塩気のあるおかずを組み合わせるのは、理にかなっており、ご飯のお供になる塩気は一層おいしく感じる。だから、食事中の塩分をやみくもに減らしたところで、味気ない、おいしくない食事になるだけで、減塩に挫折してしまうのである。
人工甘味料のような塩味代替品があればいいのだが、甘味と塩味では感じる機構が異なるため、まだ開発されていない。
市販されている「減塩しお」は、よく考えると意味がおかしいが、食塩の主成分の塩化ナトリウムの半分くらいを塩化カリウムに置き換えたものである。塩化カリウムは塩化ナトリウムと性質がよく似ていて、弱い塩味を感じるのだが、同時にえぐみや苦味を感じる。そのため、「100%塩化カリウム」は、塩味代替品にはならない。
また、腎障害の人はカリウムの代謝がよくないので過剰摂取に注意が必要だ。健康な人でも、過剰に摂取すればミネラルのバランスがくずれるので注意したい。
いまのところ、別のもので塩味を補うことはできないので、塩分を減らしておいしく食べるにはテクニックが必要だ。たとえば、うま味を強めたり、スパイスをきかせたりするなど、塩味以外の味や香りなどを強めることで風味を高める。こうして、減塩で失われたおいしさを補うことが求められる。
■ 物足りなさをうま味で補う
減塩食品では、おいしさを補うためにさまざまな工夫がされている。
たとえば、よく使われているものに酵母エキスがある。ビールやパンの発酵に酵母が使われることはよく知られているが、実は調味料としても幅広く利用されている。酵母から取り出したエキスはアミノ酸やペプチド、核酸などのうま味成分やビタミン、ミネラルなどを豊富に含む。酵母エキスは肉のような風味をもち、味成分を多く含むため、うま味が強い。また、酵母に含まれるグルタチオンは、味の厚みや持続性、広がりなどを引きだし、料理のコクを深める効果がある。
海外には、オーストラリアの「ベジマイト」やイギリスの「マーマイト」など酵母を使った調味料もあり、現地の人々は独特のうまさにはまるらしい。酵母エキスはうま味やコクの付与以外にも、塩味を増強させたり、塩化カリウムの苦味を抑えたりと、減塩食品では一層の効果を発揮する。減塩による味の物足りなさを補うことができるのだ。
また、減塩食品には、だし風味やアミノ酸などのうま味成分を加えたものも多い。塩味とうま味は相性がよく、塩味はうま味を引き立て、うま味は塩味を引き立てる効果がある。塩味を減らしても、うま味があれば全体のおいしさを補うことができるのだ。
コクを深めることも、減塩による味の物足りなさを補う方法のひとつだ。コクは味や香りなど風味が複雑になればなるほど深まる。そこでスパイスや酢などの調味料を加えて味わいを複雑にするのだ。また、加熱したり、煮込んだりすれば、食品の成分が変化したり、溶け出したりしてコクが増す。
家庭でも塩分を減らして料理するには、うま味やスパイスなどをうまく利用するとよい。減塩料理のレシピでは、だしをきかせたものや、トマトや干しシイタケなどうま味の強い食材を多く利用しているのも同じ理由で、物足りなさをうま味で補っている。
■ 「チップ」や「手袋」などユニークな減塩法も
ユニークな減塩法も開発されている。
慶應義塾大学の研究チームは「ソルトチップ」を開発した。わずかな塩分を含むチップを下の前歯の裏側に張り付けて食事をすると、チップから溶け出した塩分を舌が感知して、十分な塩分を感じられる。塩分が食品全体に含まれている必要はなく、舌の一部で塩味を感知すれば、塩味を感じることができるというメカニズムを利用した。塩分の一切含まれない料理でも、ソルトチップを付けておけば塩味を感じて、おいしく食事ができる。すでに市販もされている。
また、明治大学では、「食べ物の味を変える手袋」が研究されている。手袋の指の部分に電極が付いていて、これで食品をつかんで食べると、舌に電気刺激が与えられる。すると、塩味や酸味などの味を変えることができる。この手袋を使って塩味を感じさせやすくすれば、減塩した食事もおいしく食べられると考えられている。この手袋の実用化にはまだ時間がかかりそうだ。
■ 生活習慣全般も見直したい
私たちの食生活に占める外食や加工食品の割合は多く、いくら家庭で塩分に気を付けても思うようには減塩できないという人も多い。すでにさまざまな減塩食品が市販されているが、本来の味とは異なるイメージがあり、なかなか手に取りにくい現状もある。減塩に取り組み、塩分摂取目標を達成するには、食品加工業者や外食産業の協力も必要だ。そこで、2019年11月に食品関連15団体で設立した加工食品食育推進協議会では、食塩の取り過ぎなどの問題にも取り組むという。
減塩への動きがますます加速されそうだが、塩分は生命を維持するために必要な物質なので、やみくもに減らせばいいというわけではない。また、1回の食事での塩分の摂り過ぎがすぐに慢性の高血圧につながるわけではない。特に塩分に注意しなければならないのは、すでに高血圧の人や、塩分に感受性の高い一部の人たちである。食塩の摂取状況や健康状態は個人差があるので、その人に合った適切な量を摂取する「適塩」を心がけるべきという説もよく聞かれる。
たしかに塩分の摂り過ぎはよくないが、高血圧の予防には、運動をする、タバコや酒を控える、野菜をたくさん食べるなど、生活習慣を見直すことも必要となる。健康な人なら、塩分を減らすことばかりに気を取られるのではなく、生活にも気を付け、食事を楽しもう。
佐藤 成美
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