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読売新聞 12/16(日) 7:04配信
塩焼き、味噌(みそ)煮、西京焼き……。サバを使った定食ランチはサラリーマンの定番の一つだ。缶詰はそのままでも手軽な酒の肴(さかな)になり、晩酌を欠かさないおじさんたちの強い味方だった。華やかさとは無縁の見た目はインスタ映えもしない。それが、今年になって流行グルメの最先端として注目を集めている。フードプランナーの渥美まいこさんが、サバブームの背景を探る。
2018年は、サバ(缶)にとって“脂がのった最旬の一年”だったと言えるのではないでしょうか。
レシピサイトの「クックパッド」は11月27日、検索データやクックパッドニュースのアクセス数などを基に今年を代表する料理を選ぶ「食トレンド大賞2018」で、「サバ缶」を大賞に選んだと発表しました。
また、ぐるなび総研は12月6日、2018年を代表するグルメとして、「今年の一皿」に「鯖(さば)」を選んでいます。飲食店検索サイトのデータや報道機関などの関係者によるアンケートを基にしているそうです。
つまり、サバは今年、家庭料理としても、外食メニューとしても注目を集め、史上初のダブル受賞を果たしたのです。
実際、2017年にサバの缶詰は約3万9000トン(日本缶詰びん詰レトルト食品協会調べ)の生産量で、缶詰の王者「ツナ缶」を上回りました。日本水産(東京)のデータによると、18年4~9月の販売数量は前年の2倍に伸びているそうです。
スーパーの缶詰売り場から、サバ缶が姿を消したという現象を目にした人もいるでしょう。サバ缶に関連するレシピ本は増刷の大号令が鳴りやまないという話も聞きます。
今年は文句なしの「サバイヤー」です。ブームの背景を探ってみましょう。
「サバブーム」と聞いて、「あのサバが今さらどうして?」と首をかしげた人も少なくないかもしれません。当たり前のように食卓に並んでいたのに、なぜ、今年になって一大ブームを巻き起こしたのでしょうか?
サバの話題は2011年の東日本大震災以降、じわじわと高まっていました。
震災後、がれきの下から拾い集められ、ドロを落として販売された「希望の缶詰」はサバ缶でした。
岩手県の漁業復興プロジェクトとして、「Ca va(サヴァ)?」(「元気?」を意味するフランス語)と書かれたおしゃれな缶詰を岩手県産株式会社が13年に発売すると、100万缶以上がわずか2年半で売れたそうです。
クックパッドでも「サバ缶」の検索頻度は、12年から13年にかけて2倍に増えています。
このように、サバ缶ブームの火種はずっとあったのに、大きなブームに発展できずにいました。「酒の肴」「保存食」というイメージが定着していたからです。
導火線に火をつけたのは、17年に放送された健康情報番組の「名医とつながる!たけしの家庭の医学」(テレビ朝日系)で、サバ缶が血管の老化を防ぐとして紹介されたレシピでしょう。「魚は体に良い」となんとなく認識されていたものの、具体的な効果を伝えられたことで、サバ缶への関心は急上昇しました。
「マツコの知らない世界」(TBS系)でもサバが取り上げられ、全日本さば連合会の池田陽子さん(サバジェンヌ)が登場。健康効果だけでなく、美容効果についても触れたことで、女性視聴者の心を動かしました。
その後、NHKの情報番組「朝イチ」が、サバ缶のレシピを繰り返し紹介しています。こうして、手軽にアレンジできる調理法がお茶の間に浸透していきました。
サバ缶が全国規模で話題になったきっかけは、「健康」という視点でした。
そのため、サバ缶に素早い反応を見せたのは、健康に課題を抱えるプレ・シニア世代(55~60歳)でした。
健康に効果があるとされる食品は、食べる理由がはっきりしているため、ブームになりやすい傾向があります。
とはいえ、健康食品は百花繚乱の時代です。中高年をターゲットとする視聴者の興味をひくために、テレビでは健康にいいとされる食品が次から次へと紹介されています。「玉ねぎヨーグルト」、「菊芋」、海藻類の「アカモク」、「甘酒」、「オリーブオイル」……。「医者が認めた健康食材はコレ!」とうたわれる食材は枚挙に暇(いとま)がありません。
ここまでくると、食傷気味になって、「そう簡単に信じないぞ」という視聴者もいます。にもかかわらず、なぜ、サバ缶は突出した存在感を際立たせることができたのでしょうか。これこそ、サバ缶の奥深さ、実力と言うことができそうです。
テレビの健康番組などで扱われた話題は、せいぜい1週間程度しか続きません。
たとえ、体にいいと言われても、同じ食材ばかり繰り返し食べるというのは、現実の生活になじみません。そのうち、別の健康食品が話題になって、いつの間にか忘れ去られてしまうものです。
ところが、サバは、ゆっくりと、そして着実にファンを増やすことに成功しています。
「あれ、サバ缶ってこんなにおいしかったっけ?」
テレビで紹介された健康効果をきっかけに、サバ缶に手を伸ばしたプレ・シニア層は、久しぶりに食べてみて、こんな感想を持った人が多かったようです。
それは、「味気ない非常食」といった缶詰のイメージを覆すほどだったのです。サバ缶は、青魚特有の脂っぽさや臭みはなく、鶏むね肉のような歯ごたえがあります。味噌汁に入れたり、トマトとあわせたり、カレーなどと組み合わせたりしてみると、サバの魅力はどんどん引き出されていきます。
「健康のために」と苦行のように我慢して食べるのではなく、サバ缶を使って新しいレシピを編み出す楽しみもできたのです。
健康という視点をきっかけにプレ・シニア層に受け入れられたサバ缶。ここから、快進撃が始まります。
〈下処理なしで加工済み〉〈後始末も簡単〉という缶詰の特長は、忙しい子育て世代の女性にも支持を得ました。彼女たちがサバ缶を評価した背景の一つには、魚料理へのコンプレックスがあります。
焼き魚や煮魚といった料理を食卓に並べたいと思いつつ、主婦は魚を敬遠してしまいます。1人一尾だとボリュームも出ない上、ゴミが生臭くなるのが嫌だったり、グリルを洗うのが手間だったりするためです。
そんな主婦にとって、サバ缶は「大発見食材」だったのです。
手軽に調理ができて、ボリュームもしっかりあります。野菜類とさっと煮込むだけで、簡単に一品増やすことができます。
クックパッドでサバ缶レシピを検索してみると、和食に限らず、パスタや中華など3800以上のアレンジメニューが見つかります。
食に限らず、ブームというのは、いつも極端に真逆の方向に突き進む傾向が見受けられます。
例えば、女子高生のソックスの丈のように、ロング丈がトレンドになったかと思えば、その後には極端に短いくるぶし丈になります。安室奈美恵さんのような細い眉がはやったかと思えば、その後、太い眉に回帰しました。
その理由は、流行しているものに飽きて、新しいものを探そうとするあまり、真逆に着地するという行動なのでしょう。
食のトレンドを見てみても、「おにぎらず」(2015年の「今年の一皿」)、「パクチー料理」(16年の「今年の一皿」)、チーズタッカルビ、チョコミントなどは、まさに「映える」料理の流行でした。チーズが長く伸びる様子や山盛りにしたパクチー、独特の色彩は、インスタグラムに公開すれば多くの反響を得たことでしょう。
ところが、サバはいかにも地味な食材です。缶詰を開けただけでは、写真映えとは無縁の姿です。18年の「今年の一皿」の候補になったのは、「サバ」のほか、「高級食パン」「国産レモン」「しびれ料理」です。いずれもパッと見だけでは、「いいね」という評価を得るのは難しそうです。
つまり、これまで食のトレンドを作っていた見た目重視の「インスタ映え」から、食材の持つ機能を重視するようになったのだと思います。
一方、サバ缶には、ここ数年の食トレンドとの共通点もあります。
パクチーやチョコミントのような「社会的ブームのきっかけ」を追跡していると、ある店の存在に行き着きます。それが、輸入食品や調味料などを扱っている「カルディコーヒーファーム」です。
サバについても、ヨーロッパの陶器のような缶のパッケージが印象的な「ラ・カンティーヌ」や国産サバのオリーブオイル漬け「Ca va 缶」、カルディのオリジナルサバ缶など、バラエティー豊かなサバ缶を取り扱っています。
流行をとらえるバイヤーの迅速な対応もさることながら、トレンドに敏感な客がここで目を光らせている様子もうかがえます。
魚介類の消費量は2006年に、肉の消費量に追い抜かれました。
それから12年が経過し、日本人の肉食傾向は一層加速しているように思われます。帰宅途中の高校生はコンビニの唐揚げや焼き鳥を手にしています。昨年の「今年の一皿」に選ばれた鶏むね肉は「サラダチキン」などで、若いOLやサラリーマンによく食されています。SNSでは、赤身肉を楽しむグループの写真がアップされています。
今年、サバがトレンドとして突出した背景には、このように肉食化が当たり前となって、日本人の魚食の機会が減ったという風潮があるのでしょう。地味で当たり前と思われていたサバが、実は縁遠い存在になっているのかもしれません。
だからこそ、多くの人がサバ缶に熱狂したのでしょう。
平成最後の食トレンドがサバだったことは、魚食の新しい時代の幕開けを期待する願いもあると思います。
最近では、日本の伝統食である「干物」をアクアパッツァやスープなどの素材として活用する「ヒモノ2.0」プロジェクトという動きがあります。
魚缶や干物といった食文化の固定概念を打破することで、新しい魚の楽しみ方を探る動きはますます広がりそうです。
最近の食のトレンドを作っているインスタ映えや健康情報が過熱気味になり、素材の味や香りを楽しむことがおろそかにされてしまっている今、サバブームをきっかけに食材の持つ力が再認識されることを願っています。
※プロフィル
渥美 まいこ( あつみ・まいこ )
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